魔法シンドローム第五話.渋谷(avant) |
十二時に八雲神社へ集合、のはずだったのだが、時間になっても案の定、陽が現れなかった。冷奈が携帯で施設に電話すると、まだいると寮母さんが教えてくれた。 「今すぐに迎えに行くから準備しておけって伝えておいてください」 電話を切ると、ぼくらは急いで児童養護施設に向かう。入館し、駆け足で階段を上がり、三階の奥にある陽の部屋のドアを叩く。相部屋の人が顔を出した。年上なので背が高く、紅輝さんと同い年くらいにも見える。紅輝さんが何歳かわからないけれど。ぼくらを知っているので、すぐに陽を呼んでくれた。彼が奥から出てくる。 「お前ら、一時なのにちょっと早くね?」 冷奈が溜め息をついた。「一時なのは、渋谷! 陽くんは一時になったらテレポートでもして渋谷駅まで飛ぶつもりだったの?」 「あ、そっか」陽は後頭部を叩いた。「今から準備するから、しばし待て」 再び冷奈が呆れる具合に「あー」と息を吐いた。下で待ってるから、と怒気を込めて言い、足早に去っていく。残されたぼくは苦笑いを浮かべていた。 下は色あせた青のジーンズ、上は赤茶のシャツに迷彩柄のジャケット、首からシルバーのネックレス、と、陽は装いを完璧に決めて外に出てきた。急いで、自転車で稲畑駅へ向かう。 「てかお前ら、そんなセンスない格好で行くのかよ」 「私だってスカート穿いてもっと可愛げのある服着たかったけど、戦うかもしれないんだから汚れてもいい動きやすい服装にしたわよ」 ぼくも冷奈と考えは同じだった。とはいっても彼女はやはり女性らしく、最低限のファッションセンスは維持している。ねずみ色のパーカーの中に英字の柄が入った縞々のシャツ、下は黒のカーゴパンツ。上下スウェットのぼくとは大違いだ。 「二人ともわかってねえなあ、センスは大事だよ。なんたって俺らはシムズ。輝いた人生を送るほうが大切なんだから、どんなときでもファッションは完璧に決めなきゃ。組織の人たちだって、それであんな髪型にしてるんだし」 どこか紅輝さんの影響を受けているようだった。まあでも、彼の発言に異論はない。冷奈も反論はしなかった。 |
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