魔法シンドローム

第七話.国際魔術師機構(avant)



 間違いなくあの黒装束は強い。それこそ、怪物並み──いや、どんな言い方をしても喩えられない。誰も太刀打ちなんてできない、死神みたいなものだ。
「そんなに強いなら、なんで最初からお前が戦わなかったんだ」
 陽は語気に憤怒をはらんでいた。ぼくも疑問に思っていたから、勇気を絞りだして口を開く。
「陽の言うとおりです。そこの執行人が、そもそも人を殺していいのなら、直接藍さんを殺せばよかったのに」
 代表が携帯をいじりだす。「それ系の疑問は聞き飽きたなあ。まず執行人っていうのは全世界に四人しか存在しない。この広い世界にたった四人だよ? 数を増やせって思うけどさ、そういうの決めるのは組織とは別の機関なんだ。んでもって、死刑は迅速に行われなければならないんだけどさあ、死刑対象者を捕まえられる可能性がある場合は、なるべくその場に執行人が居合わせなければいけないんだ。でも忙しいから、いつもいられるわけじゃない。今日はたまたまこの場で事の成り行きを一緒に監視できたわけ。じゃあその度にこの執行人が手を出すとするよ? だったら、もうこの執行人一人でよくね? 俺ら組織って必要ないじゃん。てことになるから、絶対に手を出さないわけ。あくまで捕まえるまでは俺らの仕事」
 早口で言われたので、うまく言葉を整理できなかった。でも、漠然と理解はした。代表は携帯をいじるのを止めて、ぼくに歩み寄ってきた。何かされるのではと身構える。左手が伸びてきた。握手を求める手。代表は、また柔らかな笑みを浮かべていた。
「挨拶が遅れたね。はじめまして。俺は東京支部の代表、春日野シオン。組織の本部は京都に構えていることは、知ってるね?」
 ぼくは頷く。
「組織としては、東京が二番目に偉い場所だから、俺はこの国の組織全体で二番目に偉い人ってこと。よろしくね」
 戸惑いながらも、握手を交わした。名前の漢字は汐穏(しおん)と書くらしい。年齢は二十八歳。汐穏代表は、冷奈と陽にも丁寧な挨拶をしていた。それが藍とかぶってみえた。



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