魔法シンドローム

第九話.風無命へ(avant)



 家に着くと、真っ先に冷奈の携帯に電話を掛けた。呼びだし音が鳴りだす。
「もしもし、まことくん?」
 ──出た。あまりにも早く電話に出たので、一瞬、ぼくの頭からは言葉が吹き飛んでいた。やっぱり無事であったことの安堵感が胸に広がる。……いや、まだ危険な状況にいるかもしれない。
「冷奈、無事なの? 今どこにいる?」
 うん、と小さな声。「心配しないで。私の家だよ、自分の部屋にいる」
 それから冷奈は、端的に出来事を話してくれた。渋谷から連れ去られたあと、どこかの家で目覚め、そこには黒装束を脱いだ男の執行人がいて、陽に自分の役目を引き継がせたいと言った。
 ぼくは、ずっとある可能性を脳裏に浮かべていた。陽には聞きそびれたけれど、冷奈も姿を見て話したのなら、何かわかるはず。
「ねえ、その執行人ってもしかして」
「──まことくん」
 核心に迫ろうとしたぼくの言葉を遮られた。
「今日は、きっとすごく疲れてるでしょ? 私、明日の朝まことくんの家に行くよ」
「……学校は?」
「その前に行くの。ちゃんと家にいてね。そのとき、私に色々訊いて」
 疲れた頭では詰め込めないような話があるのだろうか。明日、全てを話してくれるのだろうか。
 素直に冷奈の言葉を了承した。



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