魔法シンドローム

第四話.KG氷牙(avant)



 ぼくらの前ではたちが悪かった講師は、校長先生に会うや一転して丁寧な物腰になった。「誠実そうな方で安心しました。彼らをよろしくお願いします」などと先生は言う。冷奈はぼくの陰で講師を睨んでいた。
 校内放送で陽たちを呼び戻し、三人揃うと二階の空き教室へ向かう。先生にも来てほしかったのだが、「あとのことは全て僕にお任せを」と奴は言って先生を来させなかった。移動中、主に女子たちが黄色い声をあげていた。「あれ、組織の人?」「やばい超かっこいいんだけど」「スーツって素敵」などなど。講師は彼女たちに爽やかな笑顔を向けている。
 教室に入り、最前列の席に並んで座るよう命じられた。いうとおり、席に向かう。
「おい、まこと」
 ふいに講師が呼んだので、ぼくは振り向く。目前に拳が迫っていた。顔面にぶちあたる。何が起こったか瞬時に把握できなかった。目を見開き、左の頬を手で押さえて、ようやく殴られた理由を脳が模索しだした。
「てめえナニするんだよ!」陽が叫んだ。
「気にするな、席につけ」
 陽は、拳を握ってくれている。それが嬉しかった。
「あなたいったいなんなのよ! 頭いかれてるんじゃない?」
 冷奈も怒ってくれる。
「いいから席につけ。ちょっと間違えて殴っただけだ」
 こいつは、雪玉を頭上に落としたことに関して殴ったに違いない。陽が、大丈夫かと心配してくれる。頬から手を離し、問題ないよ、と返した。奴に鋭い一瞥をやりたいのだが、それすら抑え、見ないように努める。
「さっきも説明したが、力を振るいたければやればいい。無理して抑える必要はねえんだ。健常者ならちょっと不味いが、相手はシムズ。どうせお前らこのクソッタレな学校生活で相手を存分に攻撃できないことに鬱憤が溜まりまくってんだろ」
 そういう気持ちはわかってくれるらしい。この人も小学生の頃は同じ思いだったのだろうか。だが、ここは抑えなければいけない。そもそもぼくがきちんと力を制御せずに闇雲に雪玉を吹き飛ばしたことが原因だ。運の悪さも重なってこの人の頭上に氷の塊を落とした。ごめんなさい、で済むならいい。しかし相手が健常者で、防ぐことができず致命的なダメージを与えていたら、取り返しがつかなかった。
 ぼくは素直に席についた。冷奈と陽は立ったまま。二人でかかってくるか? と講師。
「二人とも、ありがと。ぼくは大丈夫だから」
 そう言ってみせると、二人は渋々といった具合に警戒を解いて席に座った。
「血の気があるのは良いことだ。世間のしがらみに縛られて、我慢して遠慮しながらひっそりダラダラと生きて死んでいく健常者どもより、俺はお前たちのようなシムズが気に入っている」
 講師は黒板の前に立つと、赤いチョークを取って、中心に字を書いていく。
 加賀 紅輝
 そう書き込まれた。かが、こうき、とふりがなも付ける。
「俺の名は加賀紅輝だ。遠慮はいらない、親しみをこめて紅輝さんと呼べ」



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