彼女が僕の中にいる

第七話.僕が僕を看病する(avant)



「さっきの威勢はどうした」
 雪兎は恐怖心と罪悪感を抱いていた。自身の勢いに任せた行為を信じられずにいる。相手にちょっと噛みつかれればこんなものなのかと僕は拍子抜けした。僕は、雪兎を勘違いさせる安易な誘惑を繰り返した自分を素直に責めた。僕らの距離感は近すぎたから、彼の欲望に歯止めが利かなくなるのは当然だ。
「まあ逆に評価してやるよ。真白雪兎は絶対にこんなことやる人間じゃなかった。君も自分の行いに驚いてるぐらいだ。勇猛な雄らしくなってきたじゃないか。僕の調教の成果かなあ?」
 雪兎はおそるおそる頷いた。僕はふっと笑ってやる。
「そうだ、良いこと考えた。僕とゲームをしようよ。ゲームは好きだろ、雪兎」
「なに、するの……」
「続きをやるんだ。お前の欲情を命懸けで受け止めてやる。僕を本気で襲えるようになった君の心の成長のお祝いだ。ただし」
 雪兎の背を床に打ち付けてやると、鋭く呻いた。すかさず首に両手をかける。
「僕はお前の所有物じゃないから全力で抵抗する。いったように正に命懸けだ。お互いにな。それでもやれるんなら、僕をレイプしてみろよ!」
(ゲームなんて範疇を超えてる……)
「今更何いってんだよ。これは僕と君だからできる最高の遊びだ」笑みがこみ上げた。「楽しいな、人にこんなふうに暴力をふるうのは初めてだ。その相手が自分自身だなんて、たまらなく興奮するね。ほら、早く僕の肉体を犯そうとしてほしい。じゃないともっと首を圧迫するよ。正直僕は興味があるね。君を殺したら、僕はどうなるのかって」
 雪兎は首に力をこめて耐え続けていた。彼には危機感がない。途中で止めてくれるだなんて信じていた。さっきは僕を襲うことを止めるつもりもなかったくせに。
 僕は自分≠フスイッチの入れ方を熟知している。声のトーンが野太くなるよう喉を調整した。首を絞める力を一気にこめ、奴の瞳の寸前まで僕の目を近づけた。
「もういい、先に父親の元へ行ってろ」
 雪兎の思考が、切り替わった。僕が本気で殺そうとしているのだと受け入れた。
 僕の腹に、拳がぶち込まれる。本物の痛みが走った。


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