彼女が僕の中にいる

第二話.僕が僕を変える(avant)



 自転車を漕ぐ彼の足は軽やかだ。僕の存在が、高校に対するネガティブな感情を吹き飛ばしてしまった。堤防の道に入ってしばらく経つと、彼は僕に呼びかける思考を流す。
「僕は時々叩かれるけど、君にも痛みが伝わっちゃうんだよね」
 真白雪兎の体感は全て僕の感覚でもあるから、きっとそうなる。服の質感、風、自転車の振動も普通に感じていた。
『そういうのは気にしないで。叩かれるったって、いつもそんなに痛くないじゃん。あいつらはからかうつもりでやってるんだろうし。それにこの身体は君のものだ』
「僕らの肉体だよ」
 といいつつ彼は心の中で、自分が本体だと確信している。そこに僕が共存しているという認識だった。面倒なのでいちいちそこに劣等感を覚えたり意見したりもしない。
「君がまた出られたら……」
 ふと人の気配を感じた。背後を振り返る。視線の先には、左手にハンドグリッパーを持って自転車を片手運転している大柄な男。訝しげにこちらを見ていた。
「お前は、なにと喋ってるんだ」
 野太い声でそう問われる。ガタイの良い大柄なその男は、僕との距離を詰めてきた。



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