彼女が僕の中にいる

第三話.僕が僕にストーカーをさせる(avant)



 外見をイケメンにするにはどうすればいいのだろう。紅蓮から答えを得たいところだが、連絡を取らないと決めたしな……。
 今日も穏やかな陽気だった。来週から梅雨入りらしいけれど。そろそろ制服の上着も必要ないように思えるが、一応着ていった。
 堤防の道に入ると、僕らは西村さんと仲良くなる段取りを脳内でシミュレーションした。彼は自信がない上に醜男と思っているので、声をかけたら絶叫して嘔吐させてしまうのではと半分冗談ながら想像している。真白雪兎はそれほど自己像が歪んでいるんだ。それに一条とか守丘や木場にバカにされてネタにされ続けるかも、と剣呑な思いだった。
『君には僕がいるんだし、どうなってもいいじゃん。無茶をしよう、そういう君が見てみたいんだ』
 彼の気鬱な感情に光が差し込んだ。ちょろいもんだ。
「でもさ、君は僕の中にいるだけだし、何か嫌なことがあったら、直で被害を受けるのは僕なんだよ」
『あのね、僕もその不快感を直で受けるようなものなんだよ。君が感じていることは、僕が感じることでもあるんだ。まあ僕は別の、自分の思考も持ってるから、そこで客観的に解釈することができるわけだけど』
 例えるなら、二車線の道路に二台の車が並行しているとして、彼は左側の車、しかし左右二つともが僕でもある。でも僕は左側の車を運転することだけはできない。左の車が振動や危険を感じるのはわかるが、それを右側の車から冷静に傍観もできる。そう説明すると、彼は劣等感を抱いた。
「物事を考えることに関しては、二つの視点を持つ君のほうが高性能なんだね」
『そうだよ。君に優ってる部分があるなんて嬉しいね。そんな僕の助けを得られるんだから、君は幸せ者だよ』
 彼はそれを肯定した。その直後、後方の音に意識がいく。振り返ると、右手にハンドグリッパーを持って自転車を片手運転しているデカい男がいた。
「真白、やっぱり誰かと話してるな」
 弥城に思いきり見られていた。


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