パン屋さんに住む、一匹のねこ。 ご主人はいつもパンの生地をこねている。 こねこねこね。 それを見ていたねこも、なにかをこねたくなった。 一匹のねこは外に出て、友達のねこを見つけた。 ねこはそのねこを、こねこねとこねた。 ねこをこねるねこ。 ねこが一匹、やってくる。 ねこをこねているねこを見て、三匹目のねこもねこをこねたくなった。だから、ねこをこねているねこをこねた。 ねこをこねるねこを、こねるねこ。 ねこがもう一匹やってくる。ねこをこねるねこをこねるねこを見て、四匹目のねこもねこをこねたくなった。だから、ねこをこねているねこをこねているねこをこねた。 ねこをこねるねこをこねるねこを、こねるねこ。 ねこがさらにもう一匹やってくる。五匹目のねこもつられて、ねこをこねていく。 ねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこを、こねるねこ。 ねこが次々とやってくる。 ねこをこねるパン屋のねこを、こねる三匹目のねこをこねる四匹目のねこをこねる五匹目のねこ。を、こねる六匹目のねこ。 ねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこを、こねるねこ。 次々とやってきたねこたちが、つられてどんどんねこをこねていく。 ねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこを、こねるねこ。 次のねこがねこをこねる。 ねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこを、こねるねこ。 次のねこがねこをこねる。 ねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこを、こねるねこ。 また次のねこがねこをこねる。 ねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこを、こねるねこ。 いま、十匹のねこが登場している。 こねているねこの数は九匹。 こねられているねこの数も九匹。 だって、最初のねこは誰もこねていない。 最後のねこは、誰にもこねられていない。 ねこがわんさかやってくる。つられて、次々とねこをこねていく。 ねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこを、こねるねこ。 ねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこを、こねるねこ。 ねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこを、こねるねこ。 段々意味がわからなくなってくる。 それでもねこは増えていく。つられてどんどんねこをこねていく。 ねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこを、こねるねこ。 ねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこをこねるねこを、こねるねこ。 いま、十五匹のねこが登場している。 こねているねこの数は十四匹。 こねられているねこの数も十四匹。 いくら増えても、最初のねこは誰もこねていない。 最後のねこは、誰にもこねられていない。 ねこが十六匹になっても十七匹になっても十八匹になっても、最初のねこは誰もこねていない。最後のねこは、誰にもこねられない。 やがて最初のねこはこねられすぎて、絡まって動けなくなった。パン屋のねこも、三匹目のねこにこねられすぎて、絡まって動けなくなった。 どんどん絡まっていって、十八匹いたねこのうち、十七匹が動けなくなった。十八匹目のねこは誰にもこねられていないから大丈夫。 けれど十八匹目のねこは、みんながこねられて動かなくなったので、不安になってきた。淋しくなってきた。誰かにこねられたくなってきた。 ねこは通りがかったねこをつかまえて、事情を説明してこねてもらった。これで十八匹目のねこもこねられた。 けれど、十九匹目のねこも、周りのねこたちがこねられて絡まって動けなくなっているのを見て、不安になってきた。淋しくなってきた。 ねこは通りがかったねこをつかまえて、事情を説明してこねてもらった。これで、十九匹目のねこもこねられた。 けれど、やっぱりこねられていない最後のねこは不安になって淋しくなってしまう。二十匹目のねこも同じように、ねこをつかまえて事情を説明して、こねてもらった。 そうやってどんどんねこがこねられていく。 二十一匹、二十二匹、二十三匹、二十四匹……。 どんどんどんどんこねられていって、何百匹、何千匹と数を増やしていく。 そのうち、世界中のねこがこねられていった。 だけど困ったことが起きた。最後に残ったねこは誰にもこねられない。 世界の中でただ一匹だけこねられていないねこ。 世界中、どこを歩き回っても、もうこねられていないねこはいない。みんな動けないから、最後のねこは誰にもこねてもらえない。 こねられないねこ。 こねられたいねこ。 ねこは苦心した。 考えて考えて、思いついた。 ねこはパン屋さんに行った。ご主人に、自分をこねてもらうよう頼んだ。 けれどご主人は「そんなことはできない」と言った。最後のねこはこねてもらえなかった。 ねこは苦心した。 考えて考えて、思いついた。 絡まって動けなくなれば、みんなと同じになれる。 ねこは小高い丘を上った。頂上まで時間がかかった。 そこは芝生になっていて、転がるのにちょうどいい。そこで転がっていけば、絡まって動けなくなるだろう。 ねこは思い切って転がった。 ごろごろごろごろ転がった。 ごろごろごろごろ、ごろごろごろごろ。 やがてねこの手足は絡まっていく。 身動きがとれなくなってくる。 しかもちょっと痛い。 ごろごろごろごろ、ごろごろごろごろ。 しかも中々止まらない。 身動きがとれないので、自分では止められない。 でも大丈夫、いつかは絶対止まるから。 だって、丘には終わりがある。 最後まで転がりきって、ねこは止まった。 みんなと同じように手足が絡まって動けなくなった。 絡まって動けなくなったんだけど、最後のねこはこねられたわけではない。 結局、こねられていないねこのままだった。 やがて人間たちがこの事態に気づいた。 こねられたねこを見つけては絡まっている部分を解いてあげた。 一匹、また一匹とねこは絡まりが解けて、動けるようになっていく。 こねる遊びは危ないな、とみんなが気づいて、二度とやらないでおこうとねこたちは心に誓った。 世界中のねこが人間によって解放された。みんな動けるようになった。 最後の一匹も、人間によってほどかれた。 けれど様子がおかしい。動く気配がない。 そのねこはこねられていないねこだった。 こねられていないねこは、自分で丘を転がって絡まった。 誰にもこねられなかったから、勢いよく転がって、絡まった。 こねられていないねこは転がりすぎてぐったりとしていた。 最後のこねられていないねこだけは、二度と動くことはなかった。 |
colorless Catトップ |