ある日、人々はくだらない特殊能力に目覚めた。

case.1:ダーティフォース
case.2:ブレスユー
case.3:オープンユアハート











  case.1:強制下品(ダーティフォース)


 ぼくは自分の特殊能力の使い道に悩まされていた。それはすごく微妙な力で、なんの役にも立ちそうにない。
「アルフォンの剣技、マジで役に立つよなあ」
 後ろの席にいるシュンスケ君がいった。ぼくは話題に入っていない。内容は、いま流行りの『ナチュラルメモリー』というアクションRPGのことだ。
 いまから、特殊能力を使ってみよう。くだらなくて使えないことを分かってもらえるはず。
「あいつもいいよね、確か名前……あ、うんこ」
「はっ?」
「へっ? 俺なんかいった?」
「うんこっていったぞ」
「違う違う、だからあいつだよ、ゼノンっていううんこ使い――えっ!」
「面白くないぞ」
「ウケ狙っていってるわけじゃないって、うんこくれ! ――はあ?」
「…………」
「なんだよこれ、勝手に口からでる!」
「うんこが?」
「そうなんだよ、信じらんねーかもしんないけど」
 すごくくだらないだろ? 会話に「うんこ」という言葉を置けるんだ。これに気づいたのは一年前の小学四年生のころ。校長先生の話があまりにも退屈だったから、いきなり「うんこ」って口走ったら笑えるのになあ、なんて思って念じてみたんだ。そしたら、
「ですから、人生というのとは時としてうんこ≠ナす」
 なんて校長先生いった。みんなが爆笑して、校長先生がオロオロしてさ、言い直したんだけどもう台無しだった。ぼくは信じられなくて、試しにもう一度やってみた。
「なので、先輩方や先生と廊下ですれ違うとき、必ずうんこをしましょう」
 驚いたよ。そしてまたみんなが大爆笑。教室に戻ったときもう一度、喋っている女子に試してみたんだ。
「ユーヤって超よくない?」
「『Kfor5』の巣鴨裕也でしょ、あの人カッコイイよね」
「うんうん。うんこも超うまいしさあ」
 ぼくは思わず笑ったね。クスっ、てさ。そのあとまたやってみたんだけど、できなくなった。何度も試したんだけど、ダメだった。後になってわかったんだけど、どうやらこの微妙な能力は一日に三回が限度だった。初めのうちは面白くて、みんなにうんこをいわせてたんだけど、次第に飽きてしまった。いまじゃ一日三回使用しなかったり、今日みたいにすぐに三回使ってみたりする。
 ……あーあ、もっとマシな特殊能力がほしかったよ。マジでくだらないもんね。












  case.2:神の御加護(ブレスユー)


 私の名前は伊集院神司。歴とした男だ。
「ナチュラルメモリーマジおもしれえよなぁ」
「俺、ナチュラルのせいで昨日四時間しか寝てねー」
 今日も大衆のブタ共がテレビゲームなどというくだらんものの話をしている。大衆がゲームに時間を費やすのは、支配に酔いしれているからだろう。……くだらん。所詮それは現実ではない。気づくべきなのだよ、支配されているのは自分たちだと。テレビゲームに踊らされているのだということを。
 私は違う。私は支配する側の人間だ。その証拠に、私は特殊能力を持っている。それは選ばれた人間である証拠。支配することを許されている証拠なのだよ。
「中盤で習得できる隠し技あるの知ってた?」
「えっ、なにそれ?」
 私の特殊能力は、とあることが起きそうになると発動できる。条件が揃えば100%成功する。
「教えてほしい?」
「教えてくれよー、戦闘めっちゃ楽になりそぉだし」
「よーし、じゃあいうぞ。あ、ちょい待ち……ハッ、ハァー……」
 発動条件が揃った! とくと見るが良い、真の支配というものを!
「なに、クシャミ?」
「はっ、ハァー! ……ハァー」
「あはははっ」
「ハー、ハァー! ……はぁー」
「しつこいクシャミだなあ」
「はん――はっ……あー、クソっ!」
「止まった?」
「うん。クシャミ出そうで出ないってきもちわりぃよなぁ」
 ふっふっふっ……ハァーハッハッハッハァ! 思い知ったか! これこそが選ばれた者である証拠、私だけに許された真の支配!
 この恐ろしい力に気づいたのは忘れもしない、私が小学校三年のころだった。父が資産家である私は、生まれたときから一般庶民が到底持ち得ないモノを全て兼ね備えていた。富、才能、約束された出世。それに伴う名誉。私という完璧な人間は、一点の曇りも有りはしない。
 そんな私は入学当初から既に同じ学年のブタ共を金と権力で従えさせていた。だが、三年になったとき、奴が転校してきた。
 高島財閥の一人娘、高島麗子。
 瞬く間に男子はもとより女子も奴の側についた。そして、奴は嘲笑いながら私に向かってこういった。
「あんたもワタクシの下僕(げぼく)になりなさい。可愛がってあげるわ」
 許せなかった。唯一無二の私に対し、女の分際でありながらその侮辱。だが私はなにも言い返すことができなかった。なにをいっても負け犬の遠吠えにしかならない。
 悔しかった。
 それで、奴がふとクシャミをしようとした。その瞬間私は願った。
 ――そのクシャミが、止まってしまえばいいのに。
 するとどうだろう? 奴のクシャミは出そうででない状態に陥り、苦しんだのだ。実に愉快だった。そしてそのクシャミは結局、止まったのだ。
 それからというもの、クシャミが出そうになるたびに私は願い、苦しませながら100%クシャミを止めていた。小学校を卒業するまで私は、奴はもとより私を裏切った大衆のブタ共のクシャミを止め続けてやった。
「ふっ、ふふふ……」
 思い出せばいつもそうだ。笑いがこみ上げてくる。
「あっ、また――ハー……ハッー!」
 ふふっ。
「ハー! ハァー……ハァー!」
 ふふふっ。
「ハァー……。なんだよ、なんでクシャミがでねぇんだよ!」
 アーハッハッハッハァ!












  case.3:開かれる社会(オープンユアハート)


 わたしの名は清野清美。変な名前でしょ? わたし自身もそう思う。友達に「どんなけ清くすんねん!」ってツッコミいれられたし。当のわたしは適当に笑った。付き合い上、愛想笑いって大事よね。
 それなりに可愛くて友達も多くて成績も良いわたしだけど、加えてあるすごい特殊な能力を持っている――訂正。すごいとは言い難いわ。
 すぐに使えるものじゃなく、前日にやっておかなきゃいけない。……ていうか特殊能力とも言い難いわね、よく考えてみると。
 昨日も能力を使ってみた。実際に起きるかどうかは、当日にならなければわからない。
「おっ、ケンおはよー」
「おう」
 ターゲットが来たわ。名は夕凪健太。わたしのタイプではないが、筋肉質で色黒のカッコイイ方ではあるサッカー部員だ。
 さて、成功しているだろうか。
「そういやぁーケン、さっきサッカー部のヤツがオレに伝言託してったぞ。グランド使えんから正門集合だってさ」
「まじかー。やだなぁーランニング」
「そんなことよりお前――」
 ……。
「社会の窓開いちゃってるぞ」
「え? うわぁマジかよ!」
「変態だなぁ。開けたまんま自転車乗って学校きてやんの」
 成功した!
 そう、わたしの特殊能力とは「三分の一の確率で指定の男子の社会の窓を開いてる状態にする」というものだ。
 この力に気づいたのはつい二ヶ月前。クラスにはいつもクールなキャラの、それなりにイケてる男子――名は藤野夕というのだけど、友達の何人かは彼が好きだといってて、人気のある男子なんだ。わたしは好きじゃないから、そういうブランド的な存在の価値を落としてやりたいと思い、夜空に向かって「藤野君の社会の窓が開いてますように」とお願いをしたんだ。
 次の日わたしは目を疑った。本当に藤野君の社会の窓が全開だったんだもの。
 彼はそれに気づくと周りをキョロッキョロ窺いながらバレていないことを確認しつつ隅に移動してひっそりとチャックを上げていたわ。愛想笑いばかりするわたしだけど、さすがに心の中で大爆笑だった。
 最初は単に願い事が叶ったんだと思った。けれど「百万拾いますように」と毎日お願いしても拾わなかったわ。再び「藤野君の社会の窓が開いてますように」と願うと、開いてたの。偶然を疑って再度やってみたら、次の日は開いていなかった。気のせいだったのかともう一回願ってみたら、今度は開いていた。検証を重ねるうちに、三分の一の確率だという結論に達した、あと、最大で一人しか社会の窓を開けられない。
「おい、そういうお前も開いてるぞ」
「えっ? うわっほんとだ!」
 だから、夕凪君の友達の、藤野君の社会の窓が開いてたのは単なる偶然。



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