プロローグ


 寒すぎる。
 皮下脂肪の少ない私にとって、冬の寒さは地獄だ。コートを纏っていても防ぎきれない冷気が肌に到達して身体(からだ)を冷やしていく。雪を踏みしめる足からも、熱は吸い取られていく。指先が痛い。
 高校の前で停まるバスが私を追い越していった。大勢の学生が乗っている。暖房が利いてさぞ快適だろう。私もそれに乗ればいいのだが、家から高校まではバスに乗るほどでもない距離で、私自身、乗りたくない事情もあって自転車通学をしていた。けれど三学期の始まりからは歩きだ。登校拒否したくなるほど雪が積もっていて、自転車による登校は危険だった。
 ぎゅ、ぎゅ、と雪を踏みしめ、足跡をつけていく。寒風に身を震わせ、左手でコートを掻き合せる。……もう帰りたい。
 高校の近くまでくると、周りは学生たちで溢れかえっている。漣さんおはよう、と同級生の女の子に声をかけられて、私もにこやかに挨拶を返した。だが心中は穏やかではない。大勢の男がいるので、余計に寒気を感じて体調が悪くなっていく。おちゃらけて喋る姿、低い声、ツンツンの髪。男性的などれもが、目障りで耳障りだった。
 女子高に進学したかったのだが、行くとしても電車を乗り継いだ先の私立になる。病的なトラウマを抱えているといえど、一応中学生活は乗り越えてきたんだからなんとかなるだろう。そう高を(くく)って近くの高校を選んだのだが、入学から三日が経つと後悔していた。
 手を繋いで身を寄せ合うカップルがいる。白い息を吹かしながらお喋りしていた。あまりにも和気藹々(わきあいあい)としているので、一見、寒さを感じていないように思える。恋人同士という状態が身体機能を向上させているのだろうか。
 なんにせよ、私がそういった高揚感や幸せを得ることは生涯、有り得ない。



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