魔法シンドローム

第八話.執行人(avant)



 家にはお母さんがいるので、電話帳の切れ端を持ちだし、また八雲神社に向かった。辺りは薄暗くなっており、人の気配はない。街灯に照らされる電話ボックスに入った。
 組織に電話を掛けると、前とは違う女性が出た。
「あの、風無真司という人とお話したいのですが。ぼくの父で、海外のどこかの支部に在籍してるんです。でもどこかはわからなくて。調べて、繋いでもらうことは可能ですか?」
 今までの人よりも断然明るい声でお待ちくださいと言われ、なんだか希望が持てた。さすがにデータ量が多いからか、一分ほど経てから飲食店のCMが終わった。
「大変お待たせしました。申し訳ございませんが、そのような魔術師はどの支部にも登録されていませんでした」
 そうなることは予期していた。こうなれば最後の手段を決行するしかない。
「それじゃあ、執行人と話したいので、繋いでください」
「風無様、大変申し訳ないのですが、執行人とはお繋ぎできない規則となっております。各支部の代表に話を通していただくよう、お願いします」
 じゃあ、と声を強める。「東京の、現在の代表と繋いでください」
 また保留になり、クラッシックが流れた。カードの残高が減っていく。一分経ってもまだ終わらない。電話ボックスの隙間に強い風が抜け、唸っている。もう一分が経つと、曲が途切れた。
「風無様、申し訳ありませんが、東京支部の現代表は、風無様のことをご存知ありませんでした。なので、お繋ぎすることができません」
 ぼくは送話口に呆れまじりの息を吐きかけてやった。
「殺してやるよ」
「はい?」
「ぶっ殺してやるって言ったんだよ。お前を殺したいが、どこにいるかわからない。代わりに、ぼくの住んでいる界隈の住人を、皆殺しにする。ぼくはドロフォノスだからね。強い力を持ってるから、命を奪うことは雑作もないんだ」
「あの、風無様、そのようなことを言われましても」
「黙れよクソ受付が。てめぇはぼくの言ったことを組織に伝えればいいんだ。いいか、今から二時間以内に執行人をよこせ。特別サービスで稲畑駅にいてやるよ。一秒でも過ぎたら、駅にいる人間から殺してく。人を殺せば執行人が来る理由になるだろ? それとてめぇの命も危ういと思っておけ。時間内に執行人がやってこなければ、コールセンターの場所を調べ上げて、息の根を止めに行ってやるからなあ」
 そこまで口にすると、受話器を叩きつける様に置いた。



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