魔法シンドローム

第二話.魔力の再発現(avant)



 おじさんが言うには、放出した魔力(マナ)を再度自分に向けて当て、それを繰り返し続けて飛ぶことができるらしいんだけど、それって無茶苦茶だ。いったん自分から離れた力を、周りの空気を巻き込むようにして対象に当てる──そう何度も説明してくれるのだが、何度やっても、おじさんの掌にあるボトルを自分に向かって吹き飛ばせない。だんだんむかついてきた。
「とにかく繰り返しやるんだ。ボトルに向けて、魔力(マナ)を軽く放出する。速度をつけたらだめだよ。ボトルの辺りに力が到達したら、ボトルの後ろを強くイメージして、力を一気に引き込む」
 ぎゅっと手を握ったり、念じてみたり、考えうることを試すのだが、発現しない。
「できない、無理だよ、ホントに。自分から離れた風が動くわけない」
「その風≠ニいう意識は完全に捨てろ。自分の手から風を吹いているという考えを払拭しなければ、これはできない。魔力(マナ)を放出してるんだと意識しろ」
 そんなこと言われても、そしてそれを意識してみても、なにも起こせなく。やけくそで魔力(マナ)を吹き、ボトルを向こう側へ弾いてしまう。おじさんはぼくを咎めず、挑戦させる。しかし無理なので、何度もボトルを弾く。ぼくは心が折れてしゃがみこんだ。
「もういいよ、飛べなくても。飽きた」
 おじさんが息をついた。先生もよく同じ仕草をする。結局ぼくは駄目な子なんだ。根気がない。できることができない。小学校を卒業して組織に入っても、なぁんにもできないまま大人になって寿命迎えて死ぬんだ。
「座ったままでいい」倒れたボトルを雪の上に立てた。「続けて」
「おじさんは才能があるからできるんだよ。ぼくにはできないんだってば」
 おじさんは首を振る。「SS型なら、飛ばした魔力(マナ)をその先で再び発現させることができるんだ」
 飛ばした魔力(マナ)をその先で発現、と胸中でリピートする。炎も冷気も、同じように、放出したあとで別方向に飛ばせるって意味だろうか。浮かんだ疑問をぶつけると、おじさんは少しの間押し黙った。
「もう一度言うが、俺が言うことは、誰かに言っちゃだめだぞ。子供に教えてはいけないんだ。むやみに殺傷能力が身につくからね。いいかい?」
 ぼくは頷くしかなかった。おじさんは咳払いをし、辺りを見渡す。離れた場所から子供の声が聞こえるが、まだこちらには人が来ていなかった。おじさんはぼくに顔を向ける。
魔力(マナ)を放出したあと、その先で力を発現しなおせる、と言ったらいいかな。この技術は再発現、リブートと呼ばれている。しかし現代では、魔力(マナ)を放出したあとに火気や冷気を再発現(リブート)することはほぼできない」
 意味不明なので、まず首を傾ける。おじさんがこちらに歩み寄ってきた。
「まこと、俺に向けて火気と冷気を放ってくれないか。君の力量を見たい」
「それは、危ないから止めたほうがいいよ」などとぼくは言ってしまう。
「危なかったら俺も力を使って相殺する。ほら」
 おじさんは腕を上げ、こちらに掌を向けた。
「おじさんが怪我しちゃう。ぼく、うまく力を制御できないから」
「俺はうまくコントロールできるから、ある程度強力でも問題ない」
 そう言っておじさんは笑む。しかし、やりたくても無理なんだ。
 だって、本当は全然、力を扱えないから。



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